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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)991号 判決

原告

有限会社龍村織寶本社

右代表者

龍村徳

原告

株式会社龍村美術織物

右代表者

龍村徳

右原告ら訴訟代理人弁護士

大室亮一

外一名

被告

株式会社龍村織宝

右代表者

岡安みよ

右訴訟代理人弁護士

野田純生

外一名

主文

1  被告は、

(一)  原告有限会社龍村織寶本社に対する関係において、別紙物件目録(一)記載のパンフレツト中に「たつむら」(但し、同目録中の朱線で囲んだ部分)の文字を、同物件目録(二)記載の商品説明書中に「龍村裂(ぎれ)」(但し、同目録中の朱線で囲んだ部分)の文字を、同物件目録(三)記載の商品説明書中に「(龍村製)」(但し、同目録中の朱線で囲んだ部分)の文字を

(二)  原告株式会社龍村美術織物に対する関係において、別紙物件目録(三)記載の商品説明書中に「龍村製」(但し、同目録中の朱線で囲んだ部分)の文字を

それぞれ附して展示頒布してはならない。

2  被告は、

(一)原告有限会社龍村寶織本社に対する関係において、別紙物件目録(一)記載のパンフレツト中の「たつむら」(但し、同目録中の朱線で囲んだ部分)の文字部分、同物件目録(二)記載の商品説明書中の「龍村裂(ぎれ)」(但し、同目録中の朱線で囲んだ部分)の文字部分、同物件目録(三)記載の商品説明書中の「龍村製」(但し、同目録中の朱線で囲んだ部分)の文字部分を

(二) 原告株式会社龍村美術織物に対する関係において、別紙物件目録(三)記載の商品説明書中の「龍村製」(但し、同目録中の朱線で囲んだ部分)の文字部分を

それぞれ廃棄せよ。

3  原告らのその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は、原被告ら各自の負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因第一項の事実は当事者間に争いがない。

二本件(A)各商標権、本件(B)各商標権が訴外人〈故龍村平蔵を指す。以下同じ〉において、本件(C)商標権、本件(E)商標権が原告有限会社において、本件(D)各商標権が原告株式会社においてそれぞれ商標登録出願をして設定の登録を受けたものであることは当事者間に争いがなく、〈書証〉に本件口頭弁論の全趣旨を参酌すれば、本件(A)各商標権、本件(B)、(1)、(3)、(4)商標権、本件(D)各商標権については、その都度存続期間更新の登録がなされて今日に至つていること、本件(B)(2)商標権についてははじめその存続期間の更新登録がなされ、昭和四九年四月まで存続していたことが認められるころ、その間、本件(A)各商標権、本件(B)各商標権については、訴外人が昭和三二年四月一八日原告株式会社に対し、ついで、原告株式会社が昭和四一年八月三日原告有限会社に対しそれぞれ譲渡の移転登録をし、本件(D)各商標権については、原告株式会社が昭和四一年八月三日原告有限会社に対し譲渡の移転登録をしていることは当事者間に争いがなく、これらの事実によれば、原告有限会社は、本件(C)商標権、本件(E)商標権をその設定の登録により取得したほか、訴外人においてその設定の登録により取得した本件(A)各商標権、本件(B)各商標権を、その譲受人である原告株式会社からさらに譲り受け、原告株式会社においてその設定の登録により取得した本件(D)各商標権を同原告から譲り受けたものと推認することができるから、原告有限会社は、本件(B)(2)商標権を除く本件各商標権についての商標権者であるということができる。なお、被告は、訴外人から原告株式会社への本件(A)各商標権、本件(B)各商標権譲渡の移転登録は、原告有限会社において訴外人の印鑑を盗用のうえほしいままにしたものであるから、訴外人において右移転登録をしたとする原告らの主張を前記のように認めた被告の自白は、真実に反し、かつ錯誤に基づきなされたものである旨主張し、これを撤回すると述べ、〈証拠〉によれば、訴外人の三男である晋は、訴外人による本件(A)各商標権、本件(B)各商標権の譲渡による移転登録につき不審の念を抱いていることが認められないではないが、それは単なる憶測の域を出るものではないことが同号証により明らかであつて、そのまま直ちに信用できないし、他に被告の右自白がその主張するように真実に反し、かつ、錯誤に基づきなされたものであることを肯定し得る資料も見当らないから、被告の右自白の撤回は、原告らにおいてこれにつき異議を述べる以上、許すことができない。

三被告が原告ら主張のような記載のある本件(一)パンフレツト、本件(三)、(四)商品説明書を作成したことは当事者間に争いがなく、また、〈証拠〉を総合すれば、本件(一)パンフレツトは、横長長方形のパンフレツトであつて、裏には、営業品目として帯、ネクタイ、襖張裂地等、ふくさ、手提袋等、衣裳盆等が掲記され、かつ、その写真も印刷され、表には、右営業品目として掲げられた商品をこしらえる素材としての裂地が訴外人の努力により再生することが可能になつた正倉院御物中の正倉院裂に倣うとともに、さらにこれに創意工夫をこらして作られたものである旨の横書説明文及びこのような裂地の一文様写真が印刷されているほか、被告の商号、住所、その所在を示す地図及び原告らが商標権侵害等になるといつている「たつむら」の記載が横書で印刷されているものであつて、被告肩書の営業所店頭に備えつけられ、観客をして自由に閲覧持ち去るに任せ、本件(三)商品説明書は、被告が右営業所において販売している商品銭入に添えられている商品説明書であつて、これには「紅牙瑞錦」と題し、標題の模様が正倉院御物中の象牙の物指にある模様を模して織り出されたものである旨の説明文及びその末尾に併記された被告の商号、住所等が縦書で印刷されているものであり、本件(四)商品説明書は、被告が前同様販売している商品ふくさに添えられている商品説明書であつて、これには、「天平織華文錦」と題し、標題の模様が正倉院御物中の裂地に刺繍されている「緋地羅唐草文刺繍」、「深縹地羅唐草文刺繍」と呼ばれている模様に想を得て創作されたものである旨の説明文及びその末尾に併記された被告の商号、住所等が縦書で印刷されているものであることが認められ、これによれば、本件(一)パンフレツトは、被告の販売している商品帯、ネクタイ、襖張用裂地等、ふくさ、手提袋等、カーテン等、衣裳盆等を、これをこしらえている裂地につき説明宣伝することにより、広告する広告として、顧客に展示頒布され、本件(三)商品説明書は、被告の販売している商品銭入を、これをこしらえている裂地につき説明宣伝することにより、広告する広告として、顧客に展示頒布され、本件(四)商品説明書は、被告の販売している商品ふくさを、これをこしらえている裂地につき説明宣伝することにより、広告する広告として、顧客に展示頒布されていたものということができるところ、これらのパンフレツト及び商品説明書については、債権者原告有限会社、債務者被告間の東京地方裁判所昭和四六年(ヨ)第二五二三号商標権侵害仮処分申請事件につき同年九月一三日発布された同裁判所の商標使用差止等の仮処分決定が翌一四日被告に送達され、かつ、これに基づく執行として、被告占有中のものにつき、被告の占有が解かれて同裁判所執行官の保管に移されるに至つたことが当事者間に争いがないから、被告は、なおこれらを展示頒布しているものということができる。

また、〈証拠〉を綜合すれば、本件(二)商品説明書は、龍村商工において作成したものであるが、被告がその前認定営業所において販売している商品札入に添えられている商品説明書であつて、これには、「金剛間道」と題し、標題の縞柄が能衣裳金襴の縞柄に想を得て創作されたものである旨の説明文が縦書で印刷されているものであることが認められ、これによれば、本件(二)商品説明書は、被告の販売している商品札入を、これをこしらえている裂地につき説明宣伝することにより、広告する広告として顧客に展示頒布されていたものということができるところ、これについても、前記仮処分決定によりその頒布が仮に禁止されるに至つたことが認められるから、本件(二)商品説明書も被告の商品に関する広告であり、被告は、なおこれをも展示頒布しているか、少なくとも将来これを展示頒布するおそれがあるものということができる。そして、本件(二)商品説明書に原告ら主張の「龍村裂(ぎれ)」の記載があることは当事者間に争いがない。

四ところで、原告有限会社は、本件(一)パンフレツト中の「たつむら」、「龍村平蔵」「龍村製」、「龍村」、「龍村特製」の記載、本件(二)商品説明書中の「龍村裂(ぎれ)」の記載、本件(三)商品説明書中の「(龍村製)」、「龍村」の記載、本件(四)商品説明書中の「龍村裂(ぎれ)」の記載は、請求原因第四項において述べたように、本件各商標権のうちの少なくとも一つの商標権の侵害に該当すると主張するので、以上この点について検討すると、商標法第三六条によれば、商標権者は、商標権を侵害する者に対し侵害の停止等を請求できるとされているが、ここにいう商標権を侵害するとは、商標権者の有する権利、すなわち、同法第二五条によれば、商標権者の専有する指定商品について登録商標の使用をする権利、を侵害することをいうのであるから、指定商品について登録商標を使用することを指すのは当然であるが、さらに、同法第三七条によれば、指定商品について登録商標に類似する商標を使用すること、指定商品に類似する商品について登録商標若しくはこれに類似する商標を使用すること、このような商標使用がなされている商品(その包装を含む。)若しくは、このような商標の使用をし、あるいは、使用をさせるために登録商標又はこれに類似する商標を表示したものを所持ないし製造すること等を商標権を侵害するものとみなしている。したがつて、これらによれば、商標権の侵害を構成するには、少なくとも、登録商標若しくはこれに類似する商標の使用、あるいは、その使用がないとしても、その使用をし若しくは使用をさせる意思をもつた一定の行為がなければならないことになる。ところで、商標法第二条第一項は、商標とは、文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合(以下「標章」という。)であつて、業として商品を生産し加工し証明し又は譲渡する者がその商品について使用するものをいうと定義し、また、同条第二項は、登録商標とは、商標登録を受けている商標をいうと定義しているから、前述の商標権侵害を構成する要素となつている登録商標若しくはこれに類似する商標とは右定義に該当する商標でなければならないことはいうまでもない。しかしながら登録商標若しくはこれに類似する商標であつて、業として商品を生産し加工し証明し又は譲渡する者がその商品について使用(使用の定義については第二条第三項参照。)等をする場合には、それは必然的に商標権を侵害することになるかどうかは問題である。商標は、商品の顔にもたとえられ、社会における一般通念によれば、自他商品識別の機能を果させる標識であると考えられていることは周知のとおりであるが、そもそも自他商品識別の機能を果すことあるいはその機能を果すことを目的とすることが商標制度の本質的要素の一つなのであつて、右にみたように商標法第二条第一項は商標を定義するに当り、その商品の識別機能について何等言及していないのであるが、このことから、わが商標法は商標につき商品の識別機能には何等考慮を払うことなく、「文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合であつて、業として商品を生産し加工し証明し又は譲渡する者がその商品について使用をするもの」であればこれを全部商標であるとし、したがつてその商標が登録商標である場合には商標権者は他人の登録商標若しくはそれに類似する商標の使用等をその使用態様のいかんを問わず一切これを禁止し得るとしているものと解することはできないのである。商標法第二条第一項は、形式的には商標の自他商品識別機能については規定するところなく、標章であつて業として商品を生産等する者がその商品について使用をするものはすべて商標であるというような規定の仕方をしているが、この条項の中には当然自他商品識別の機能を有するものとしての商標の概念が前提されかつ含まれているものと解さなければならないものと考えられる。そしてこのように解することによつて始めて商標法第一条の「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護する」という商標法の目的が達せられるものと考えられるのである。商標法第二条第一項を右のように解釈すべきことは、右規定を文字どおり形式的に解釈すれば、例えば「文字……であつて、業として」雑誌という「商品を生産……する者が」その「商品」である雑誌「について使用するもの」はすべて商標であるということになり、そこから必然的に雑誌中の全部の文字又は任意の一部分の文字も商標であり、したがつて商標権者が指定商品を雑誌として任意の文字につき商標登録を得れば、他のすべての雑誌製作者はその雑誌中に当該文字若しくはそれと類似する文字を使用できないということになり、その不当であることはいうまでもないということから容易に理解されるであろう。商標とは本来自他商品識別の機能を果すものとして使用されるものでなければならず、商標権者は登録商標の本来持つこの機能を乱すものとしての第三者の登録商標の使用を禁止する権利はこれを有するが、第三者が登録商標と同一の若しくはこれと類似の標章を商品について使用するものであつても、その使用態様が自他商品を識別するという機能の面において使用されているものと認められないときは、商標権者は第三者のその標章の使用を禁止し得ないものと解すべきである。さて、

1  前記甲第九号証によれば、本件(一)パンフレツトは、六つ折にして使用されるものであり、そのなかの原告有限会社が商標権侵害を構成するという「たつむら」の記載は、六つ折にした場合、外部に出るやゝ縦長長方形の地色が紺色の面の中央に白色で横書きに印刷されているものであり、なお、その裏側に当る面には、表面と同じ紺色地に白色で横書きされた前記被告の商号、住所等が下部に、前記被告の所在を示す地図がその上部に印刷され、さきに認定したその余の記載等はすべて内側に隠れるようになつていることが認められるところ、本件(一)パンワレツトは、前認定のように被告の販売する各種商品を広告宣伝するためのパンフレツトであるから、これよりすれば、右「たつむら」の記載は、その右認定使用の位置、態様等に照らし、標章であつて、被告の販売する各種商品を表彰するとともに、これにより他人の商品と区別する作用をも果しているということができる。そうすると、さきに認定したところによれば、被告は、「たつむら」の記載を商標としてその販売する帯ないし衣裳盆、乱箱、宝石入をはじめとする前認定商品に関する広告に附して展示頒布しているものということができるが、右「たつむら」の記載は、本件(C)商標の「たつむら」、本件(E)商標の「たつむら」と同一であり、また、右のような被告の商標が附されている本件(一)パンフレツトが広告する商品帯ないし衣裳盆、乱箱、宝石入が本件(C)商標権の指定商品である前記第一七類帯ないし本件(E)商標権の指定商品である前記第二〇類商品のうちの家具に含まれ、これと同一であるか、又は少なくとも類似であることは明らかであるから、被告が本件(一)パンフレツト中に「たつむら」と記載してこれを展示頒布していることが、少なくとも本件(C)商標権、本件(E)商標権の侵害に該当することは直ちに明らかである。

また、前記甲第一九号証によれば、本件(一)パンフレツト中の原告有限会社が商標権侵害を構成するという「龍村平蔵」、「龍村製」、「龍村」、「龍村特製」の記載は、前認定のように右パンフレツトを六つ折にした場合、内側に隠れる一面に横書きで印刷されている前認定説明文中の言葉として使われているものであつて、使用活字も特に他の言葉のそれと異なつた種類のものではなく、他の記載部分と密接に結合していることが認められるのであつて、右説明文全体によれば、それが被告の販売する商品を広告宣伝する役割を果しているものと読みとることができるが、「龍村平蔵」の記載自体は、それが他の記載部分と密接に結合している関係上、正倉院裂の魅力にひかれてこれを模写複製した訴外人を指すにすぎず、「龍村製」の記載自体は、前同様の関係上、訴外人という特定人が模写複製した正倉院裂を指すにすぎず、「龍村」の記載は、前同様の関係上、被告を指すものと解する余地がある程度のことであり、「龍村特製」の記載は、これに続く「裂地」の文言と特に不可分の関係にあるところから、せいぜい被告の商品の素材として用いられている裂地を示唆するものと解する余地がある程度のことであつて、いづれも本件(一)パンフレツトが広告する被告の商品そのものを指すものと読みとることは不可能である。そうすると、本件(一)パンフレツト中の「龍村平蔵」、「龍村製」、「龍村」、「龍村特製」の記載は、いずれもそれ自体で被告の商品そのものを表彰し、これを他人の商品と区別しようとしているものとは到底いい難いから、これを捉えて、原告有限会社主張のように、商標の使用に該当し、商標権侵害を構成するものと論ずる余地のないことは、さきに説明したところから明らかであろう。

2  前記甲第一〇号証の一によれば、本件(二)商品説明書中の原告有限会社が商標権侵害を構成するという「龍村裂(ぎれ)」の記載は、前認定「金剛間道」の標題のすぐ上に、これとほぼ同じ活字で縦書きに印刷されていることが認められるところ、右記載は、「金剛間道」の記載やこれを標題とする前認定説明文と密接不可分のものということはできないから、それ自体で独立した意味をもつものとの評価が可能であるうえ、本件(二)商品説明書が前認定のように被告の商品札入に添えて展示頒布されている以上、独立の標章であつて、被告の右商品札入そのものを表彰するとともに、これにより他人の商品と区別する作用をも果しているということができる。そうすると、さきに認定したように、たとえ本件(二)商品説明書が龍村商工によつて作成されたものであるとはいえ、これを自己の販売する商品に添えて頒布しているところによれば、被告は、「龍村裂(ぎれ)」の記載を商標としてその販売する商品札入に関する広告に附して展示頒布しているものということができるが、右「龍村裂(ぎれ)」の記載は、本件(D)(1)商標の「龍村裂」とは、振仮名がある点で相異するだけで、他は同一であるから、類似であり、また、右のような被告の商標が附されている本件(二)商品説明書が広告する商品札入が本件(D)(1)商標権の指定商品である前記旧第四九類商品のうちの袋物に含まれ、これと同一であることは明らかであるから、被告が本件(二)商品説明書中に「龍村裂(ぎれ)」と記載してこれを展示頒布していることが、少なくとも本件(D)(1)商標権の侵害に該当することは直ちに明らかである。

3  前記甲第一一号証の一によれば、本件(三)商品説明書中の原告有限会社が商標権侵害を構成するという「(龍村製)」、「龍村」の記載のうち、「(龍村製)」の記載は、前認定「紅牙瑞錦」の標題のすぐ下に、これより小さい活字で縦書きに印刷され、また、「龍村」の記載は、前認定説明文中の言葉として使われているものであつて、使用活字も特に他の言葉のそれと異なつた種類のものではなく、他の記載部分と密接に結合していることが認められるところ、右「(龍村製)」の記載は、「紅牙瑞錦」の記載やこれを標題とする前認定説明文と密接不可分のものということができないから、前認定「龍村裂(ぎれ)」の記載の場合と同様、それ自体で独立した意味をもつものとの評価が可能であるうえ、本件(三)商品説明書が前認定のように被告商品銭入に添えて展示頒布されている以上、独立の標章であつて、被告右商品銭入そのものを表彰するとともに、これにより他人の商品と区別する作用をも果しているということができるが、右「龍村」の記載自体は、それが他の記載部分と密接に結合しているうえ、これを含む説明文の末尾に前認定のように被告の商号、住所等が併記されている関係上、せいぜい「紅牙瑞錦」と題する模様の裂地を織り出したという被告を指すにすぎず、本件(三)商品説明書が広告する被告の商品そのものを指すものと読みとることは不可能であるから、それ自体で被告の商品そのものを表彰し、これを他人の商品と区別しようとしているものとはいえない。そうすると、被告が本件(三)商品説明書中「龍村」と記載していることを捉えて、原告有限会社主張のように、商標の使用に該当し、商標権侵害と断ずることができないことは、さきに説明したところと同じである。これに対し、さきに認定したところによれば、被告は「(龍村製)」の記載を商標としてその販売する商品銭入に関する広告に附して展示頒布しているものということができるが、右「(龍村製)」の商標は、本件(B)(4)商標の「龍村製」とは、括弧がある点で相違するだけで、他は同一であるから類似であり、また、右被告の商標が附されている本件(三)商品説明書が広告する商品銭入が本件(B)(4)商標権の指定商品である前記旧第四九類商品のうちの袋物に含まれ、これと同人であることは明らかであるから、被告が本件(三)商品説明書中に「(龍村製)」と記載してこれを展示頒布していることが、少なくとも本件(B)(4)商標権の侵害に該当することも直ちに明らかである。

4  前記甲第一二号証の一によれば、本件(四)商品説明書中の原告有限会社が商標権侵害を構成するという「龍村裂(ぎれ)」の記載は、前記認定説明文中の言葉として使われているものであつて、使用活字も特に他の言葉のそれと異なつた種類のものではなく、他の記載部分と密接に結合し、なかんずく、直後に続く「天平織華文錦」の文言と不可分の関係にあるところから、被告の販売する商品ふくさの素材として用いられている裂地を示唆するにすぎず、本件(四)商品説明書が広告する被告の商品そのものを指すものと読みとることは不可能である。そうすると、本件(四)商品説明書中の「龍村裂(ぎれ)」の記載は、それ自体で被告の商品そのものを表彰し、これを他人の商品と区別しようとしているものとはいい難いから、これを捉えて商標の使用に該当し、商標権侵害を構成するものと論ずる余地がない。

五〈証拠〉を綜合すれば、つぎのとおりの事実を認めることができる。

訴外人(明治九年生)は、明治二七年ころ京都において織物販売業をはじめ、織元から自己の気に入つた帯等の織物を仕入れて販売していたが、そのうち、販売だけではあき足らなくなり、同市内西陣に工場を構え、種々研究のうえ創作した九重繻子、纐纈織、高浪織といわれる織物帯をはじめとする織物製品を自ら製作して販売するようにもなつたところ、これらが世間にもてはやされ、明治末期にはかなり著名な織物業者に数えられるに至つた。そして、訴外人は、その後も古今東西の著名な織物に興味を示してこれを研究複製するとともに、その成果を応用した帯等を製作することに努力し、大正八年には東京、大阪において第一回龍村平蔵織物美術展会を開催し、自己の苦心の作品である帯一〇点を展示してこれを世に問うたところ、それが古代の有名な織物の模様等をもとにして創作された優れた模様を織り出していたところから、芸術品の域に達しているとして非常な好評を博し、これが新聞にも取りあげられて全国に紹介されるに至り、日本全国にその名をはせ、大正一〇年ころにはかねて声援を受けていた美術界の著名人の後援により訴外人の復元になる古代裂、名物裂の頒布会が結成されて、優れた作品が世間に頒布され、その名声がいよいよ確固たるものとなり、大正一二年ころ以降は、当時としては破格の名誉に属する宮内省からの製品注文もたびたび受けるようになり、特に昭和四年ころには、秩父宮の御成婚に際し皇室から贈られる壁掛の製作依頼をも受けるほどで、その名は夙に日本全国に著名となつていたが、その間、自己の作品には、製作者を明らかにする趣旨で「龍村平蔵製」、「龍村平蔵模」、「龍村製」の文字を織り込んでいたので、右表示も訴外人の手になる高級織物の誉の高い織物製品を指すものとして夙に日本全国に著名となつていた。

ところで、訴外人の長男平は、中学一年生のときに死亡したが、二男謙は、昭和四年東京帝国大学文学部美学美術史科を卒業して直ちに織物研究のため外遊し、翌昭和五年九月帰国するに至つたが、訴外人は、前記のように秩父宮家に贈られる壁掛の製作に着手するに至つて、以来織物美術に関する研究については熱意を示していたものの、自己の経営する織物製品の製造販売業についてはとかく興味を失うに至つていたため、謙は、家業を継ぐ格好で早速訴外人に代わり織物製品の製造販売業に従事し、やがて昭和九年には龍村織物美術研究所(以下「研究所」という。)を設け、訴外人とともに織物の研究に従事するとともに、従前同様自ら中心となつて織物製品の製造販売を続け、翌昭和一〇年訴外人が病臥するに至ると、訴外人の後継者として営業活動を主宰していた。ところが、そのうち戦時統制経済の時代に突入し、従来研究所において製作して来たような高級な帯をはじめとする織物製品のごときは、奢侈品としてその製造販売ができないことになつたが、幸い研究所において保持している高度な伝統技術が評価され、これが途絶えるのを惜しんだ有志の者の運動により、謙名義で技術保存に必要な限度で特に製造が許可され、ここに研究所においては、統制品となつていた原料絹の割当配給を受けながら細々と製作を続けつつ第二次大戦の終戦を迎えた。ところで、研究所は、戦後繊維製品に対する統制が行われている経済下にもかかわらず、政府から進駐軍向け製品の大量注文を受けてその製作に追われ、営業とみに好況を呈し、これに伴い、復興金融公庫から融資を受けて京都市内にある工場等の生産設備を拡張するとともに、従業員もふやして生産を拡大して行き、かなりの利益を挙げるに至り、そのころ謙において全国有数の高額所得者に数えられるまでにもなつたことがあつた。さて、研究所は、前記のように融資を受けるに際し、従来の個人営業を法人組織に改組することを要求されていたので、昭和二二年その支配下にあつた工場、その敷地、その他の生産設備等の資産のうち織物研究のために利用しているものを除く一切を謙において現物出資することにして龍村織物株式会社(以下「龍村織物」という。)が設立され、爾後龍村織物において研究所の営業を承継し、訴外人及び研究所の時代を通じ一貫して使用されて来た本件(A)各商標である「龍村平蔵製」の商標、本件(B)各商標である「龍村製」の商標(これらの商標がはじめ未登録であつたことは前記のとおりである。)を引続き使用して織物諸製品の製造販売に乗り出すことになつた。

ところで、訴外人の三男晋は、昭和八年東京大学経済学部を卒業し、紡績会社に勤務していたが、謙が兵役に就かなければならなくなつたのを契機に、昭和一五年暮右会社を辞めて家業の研究所の仕事に就くようになり、特に翌一六年以降終戦のときまでの間は応召不在となつた謙に代つて研究所の生産活動に従事し、また、四男徳(原告ら代表者)は、早稲田大学理工学部機械科を卒業し、会社勤めをしていてそのうち兵役に就いたが、昭和一八年一時除隊したことがあつたときに研究所の仕事を手伝つたことから、戦後復員すると家業に戻り、五男元は、終戦後間もなく家業を手伝うようになり、こうして、戦後は、謙を中心にして晋、徳、元らの兄弟が相寄り研究所の営業を続けていたところ、龍村織物の発足に伴い、謙においてその発行株式四〇〇、〇〇〇株のうち三七四、〇〇〇株を引受けてその代表取締役に就任し、晋において一、〇〇〇株を引受けてその取締役の一員に就任した、そして、龍村織物は、当初研究所時代と同様順調に営業を続けていたが、間もなく戦後の異常なインフレーシヨン鎮圧のためとられることになつた、世にドツヂラインの呼名で有名な政府の財政緊縮政策の影響を受け、従来あつた政府からの大量の受注が一時に完全に杜絶するとともに、そのころ繊維製品に対する統制が一挙に撤廃されるに至つて営業活動がたちまち沈滞に向い、早くも昭和二四年には三億円を超す負債を抱えて経営が行き詰まり、融資先金融機関からは、人員整理による営業規模の縮小を迫られるに至つた。こうした事態に直面し、晋は、金融機関からの指示もあつて、謙が中心になり研究所において行つている美術面に関する研究活動は、直接生産活動に結びついていないとして、経営建直しのためには、まず研究所の人員を大幅に削減し、今後は少人数で技術の保存、研究を行うことにしなければならない旨主張するとともに、徳も非生産的な立場にある人物として会社から排除すべきことを主張して謙及び徳らと激しく衝突し、同人らの離反に会うに至つた。そこで、晋は、独り残つて龍村織物の財政建直しをはかつたが、成功せず、間もなくこれを見捨て、昭和二五年一二月二九日東京に織物製品の製造販売を目的とする前記龍村商工を設立し、翌昭和二六年四月一日謙との間に、手織により製作する高級な帯を中心とする美術織物の製造販売を謙において行い、機械により製作する主として広幅の織物の製造販売を晋において行う旨の取決めをして製品の製造販売を行い、その後前記のように昭和四五年四月二〇日龍村商工の販売部門を担当するものとしての被告を設立したうえ、これに製品を供給し、昭和四六年龍村商工が事実上倒産するに至ると、個人で右製品の製作に当つたうえ、これを被告に供給し今日に至つている。

他方、謙、徳及びこれに同調した元らは、晋と衝突して以来、訴外人を擁し、研究所によつて営業を続けていたが、龍村織物を事実上承継する恰好で、昭和二九年三月五日原告有限会社を設立し、徳においてその代表取締役に就任して織物諸製品の製造販売をはじめ、その利益をもつて龍村織物の負債の返済もはじめたが、徳は、会社の資産と営業活動との分離を目指して、昭和三〇年一二月三日原告有限会社の営業部門を承継する形式をとつて、京都に本店を置く原告株式会社を設立し、訴外人及び謙を技術顧問として迎えて研究及び技術者の養成に当らせるとともに、自らは代表取締役に就任のうえ、原告有限会社が京都市内に保有する生産設備をそのまま使用して製品製造に当るとともに、販売する製品には引続き訴外人から通常使用権の許諾を受けた本件(A)各商標、本件(B)各商標を附し、これらの営業活動により挙がる利益のうちから龍村織物の負担を返済して行つたところ、その後営業は順調に発展し、各種織物の製造販売へと取扱商品も増大し、東京にも支店を設けるようになり、製品の優秀さから京都の龍村として各種の書籍にも紹介されるまでに有名になつたが、その間前記のとおり昭和三二年四月一八日には一旦訴外人から本件(A)各商標権、本件(B)各商標権を譲り受け使用していたが、昭和四一年八月三日これを、その間自ら取得した本件(D)各商標権とともに原告有限会社に譲渡したうえ、通常使用権の許諾を受け、あるいは、その後原告有限会社において取得した本件(C)商標権、本件(E)商標権についても通常使用権の許諾を受けた。

しかしながら、晋と徳とは、前記訣別以来財産の帰属等をめぐつて裁判にも及ぶ争いを繰り返し、令日に至つている。

以上の事実が認められるのであつて、右認定の事実によれば、本件(A)各商標である「龍村平蔵製」の商標及び本件(B)各商標である「龍村製」の商標は、西陣織の産地としても著名な京都にあつて、織物美術家として夙に令名をはせていた訴外人がその製作販売する帯、壁掛をはじめとする高級な美術織物に附していたため、かねて訴外人の商品たることを示す商標として日本全国に著名であつたところ、訴外人経営の事業がその後内部的に漸次訴外人の事実上の長男ともいうべき謙を中心としてその兄弟により京都を本拠として運営される研究所に承継されて行くに従い、訴外人の商品であることを示す商標から研究所の商品であることを示す著名商標へと自然に転化して行つたが、親族相寄り京都を本拠として運営される個人企業としての研究所の営業活動が歴史を重ね、かつ、その間製品の優秀さに支えられて、隆昌に向うに従い、研究所の商品であることを示す商標からさらに訴外人の一族が京都を本拠として製造のうえ販売している織物商品であることを示す商標に変質するに至つたので、右「龍村平蔵製」の商標及び「龍村製」の商標は、研究所の事業がその実体には変更がないまま龍村織物に改組されると、龍村織物の商品たることを示す商標として著名となり、また、龍村織物が事実上倒産し、徳、訴外人らにおいてこれを事実上承継する恰好で京都を本拠として運営される原告有限会社を設立して織物製品の製造販売をはじめると、同原告の商品たることを示す商標として著名となり、さらに、同原告の営業活動を承継することにして同原告が京都に保有する生産設備を使用して織物製品の製造販売を行う原告株式会社が前同人らにより設立され、その営業が開始されると、ほどなく同原告の商品たることを示す商標として全国に著名となつたものと認めることができる。〈証拠排斥〉

しかしながら、本件(C)商標、本件(E)商標である「たつむら」の商標及び本件(D)各商標である「龍村裂」の商標は、原告株式会社のどのような商品に、どのような状態で、どの程度附されていたかも明らかでないうえ、かりにそれが原告株式会社の商品に附されていたとしても、本件(C)商標権、本件(D)各商標権、本件(E)商標権の登録は、前記のように極く最近のことであるうえ、その使用し得る指定商品の範囲も概して限られたものであることに徴すれば、たとえ、商標中の「龍村」部分が前認定のように著名となつている「龍村平蔵製」、「龍村製」の商標の「龍村」部分と同一であるとしても、未だ原告株式会社の商品たることを示す商標として著名になつているとは認め難く、〈証拠〉中、右認定に反する部分は措信し難い。また、原告株式会社が京都の龍村として著名であることはさきに認定したところから明らかであるが、さりとて右「龍村」だけで同原告の商品たることを表示し、しかも、それが著名であると認めるに足りる確証はない。かえつて、〈書証〉によれば、前記原告有限会社、龍村商工をはじめとして「龍村」の文字を含む商号の織物商品を扱う会社は複数あつて、単に「龍村」というだけでは、必ず原告株式会社を指すとは限らないことが窺われるのであるから、「たつむら」にしても同じことであるが、「龍村」をもつて原告株式会社の著名な商品表示と認めるのは困難である、なお、前記甲第一五号証中には、「龍村」といえば、原告株式会社の商品帯を示すかのごとき記載があるが、右記載は、前後の記載からみて不用意なそれであり、これをもつて「龍村」の表示が原告株式会社の著名な商品であると認めることはできない。そして、以上の認定を左右し、「龍村裂」、「たつむら」、「龍村」の表示が原告株式会社の著名な商標ないし商品表示であることを認めるに足りる資料はない。

六さて、本件(一)パンフレツト中の「たつむら」の記載文字、本件(二)商品説明書中の「龍村裂(ぎれ)」の記載文字、本件(三)商品説明書中の「(龍村製)」の記載文字は、商標と認められるのに対し、本件(一)パンフレツト中の「龍村平蔵」、「龍村製」、「龍村」、「龍村特製」の記載文字、本件(三)商品説明書中の「龍村」の記載文字、本件(四)商品説明書中の「龍村裂(ぎれ)」の記載文字が、商標に該当しないことについてはさきに認定したとおりであるところ、後者の各記載文字が商標に該当しないというのであれば、被告の商品たることを示す表示にも該当しないことはいうまでもないことであるから、これらの記載文字を捉えて原告株式会社主張のように不正競争行為を云々することができないのもまたいうまでもないことである。

そこで、以下被告において、前認定のように、その販売する帯をはじめとする各種織物製品を広告宣伝するため、本件(一)パンフレツト中に「たつむら」の記載をし、その販売する商品札入を広告説明するため、本件(二)商品説明書中に「龍村裂(ぎれ)」の記載をし、その販売する商品銭入を広告説明するため、本件(三)商品説明書中に「(龍村製)」の記載をしていることが、前認定原告株式会社の帯をはじめとする織物製品を示す周知商標である「龍村平蔵製」、「龍村製」と同一又は類似のものを使用し、彼我商品の混同を生じさせている行為等に該当するか否かについて検討する。

まず、本件(三)商品説明書中の「(龍村製)」の記載文字は、原告株式会社の前記周知商標「龍村製」と類似であることは、さきに述べたように明らかであるから、被告においてこのような記載のある本件(三)商品説明書を前認定のように、その販売する商品銭入に添えて展示頒布している以上、被告の商品銭入が、前記のように競争関係にある原告株式会社の商品であるかのごとく誤認混同されるおそれのあることはいうまでもないことであるし、また、そうとすれば、原告株式会社がこれにより営業上の不利益を被るおそれのあることも明らかである。もつとも、本件(三)商品説明書の末尾に被告の商号、住所等が明記されていることは前認定のとおりであるが、被告の商号は、原告株式会社の商号と同様「龍村」の文字を含むところ、原告株式会社は、前認定のように京都の龍村として著名であるうえ、東京にも支店を構えているのであるから、右被告の商号、住所等の記載によつては、彼我商品の出所を示す営業主体の混同を来し、ひいては、彼我商品の混同に拍車をかけるおそれこそあれ、被告商品を原告株式会社の商品と区別する作用を営むとは考えられない。

つぎに、本件(一)パンフレツト中の「たつむら」の記載は、原告株式会社の著名商標「龍村平蔵製」、「龍村製」のうちの「龍村」部分と類似であるということができるが、さきに認定したように、原告株式会社の商品表示として「龍村」だけが使用され、しかも、それが著名であるとまではいうことができないことからも窺われるごとく、原告株式会社の右周知商標は、省略のない全体で表現している独特の観念をもつた商標としてのみ意義があると認められるのであるから、両者の商標は、「龍村」部分において称呼を共通にする程度の類似点を有しているとしても、全体としては互いに区別が十分可能であり、ひいては、本件(一)パンフレツト中の「たつむら」の記載により、原告株式会社主張のように、被告の商品と原告株式会社の商品とが混同し、あるいは、これにより原告株式会社において営業上の不利を被るに至るようなおそれがあるものとは考えられないし、また、他に右認定を左右し、原告株式会社の右主張を肯定し得るに足りる証拠もない。もつとも、本件(一)パンフレツト中の「たつむら」の記載は、単に商品を表示するに止まらず、出所を表示する機能をも果し得ると考えられるので、この点において被告が前記のように京都の「龍村」として著名な原告株式会社と誤認混同されるおそれがないとはいゝ難いが、これは、本訴において問題とされていないことに属する。

また、本件(二)商品説明書中の「龍村裂(ぎれ)」の記載文字は、原告株式会社の前記周知商標と「龍村」部分において同一であるが、これのみによつては、両者の商標が類似し、これにより彼我商品の誤認混同を来し、原告株式会社において営業上の不利益を被るようなおそれがあるものといえないことは、すでに述べたところから明らかであろう。

七以上のとおりとすれば、被告が本件(一)パンフレツト中に「たつむら」と、本件(二)商品説明書中に「龍村裂(ぎれ)」と各記載してこれらを展示頒布していることは、原告有限会社の有する前記商標権の侵害に該当し、また、被告が本件(三)商品説明書中に「(龍村製)」と記載してこれを展示頒布していることは、原告有限会社の有する前記商標権侵害に該当するとともに、原告株式会社に対する不正競争防止法第一条第一項第一号所定の不正競争行為にも該当するから、被告による前記のような行為は許されず、ひいては、本件(一)パンフレツト中の「たつむら」の記載部分、本件(二)商品説明書中の「龍村裂(ぎれ)」の記載部分、本件(三)商品説明書中の「(龍村製)」の記載部分は、商標権侵害の関係においては、侵害行為を組成したものとして、また、不正競争防止法違反の関係においては、侵害行為の停止を実行あらしめるために抹消する等の方法により廃棄されなければならないところ、被告は、原告らの本訴請求は、権利の濫用に該当し許されない旨主張するので、この点について検討を加えると、なるほど、さきに認定したところによれば、原告らの本訴請求が、被告主張のように、原告らの代表取締役である徳と被告の取引先である晋との間の長年にわたる兄弟紛争に関係がないということはできないが、さりとて、これから直ちに原告らの本訴請求をもつて権利の濫用に該当するものということはできないし、他に被告主張のように原告らの本訴請求が権利の濫用に該当し、許さないものであることを肯定し得るに足りる事情は見当らない。

八よつて、原告らの本訴請求は、主文第一、二項掲記の限度においては理由があるからこれを認容しなければならないが、その余は失当として棄却を免れず、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文、第九三条第一項但書を適用して主文のとおり判決する。

(高林克己 小酒禮 清永利亮)

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